久音くんがゆっくりと足を止める。

急に知らない人に連れて行かれて、その後されたことも……すごく怖った。

でも、記憶が無いうちは私の全ては久音くんだった。

「今日は1日何してたの?」って聞かれて、見たテレビの内容とか話すと優しく相槌を打ちながら聞いてくれた。

オムライスも作ってくれた…。

「久音くんのしたこと、まだすぐには受け入れられないけど……でも…」

一緒に過ごした時間全部沙奈ちゃんの代わりだったとしても、それも私であることに変わりない。

久音くんの過去を聞いた時、胸が痛くなった。

でもなんとなくその痛みは私も知ってる気がした。

私もパパが突然この世を去って、悲しい気持ちをどこへ持っていったらいいか分かんなかったから。

乗り越えられたのは、お兄ちゃんがいてくれたから。

辛い時はそばにいてくれたから。

大切な人が突然いなくなっちゃうのは、すごく悲しい。

でも私がもう知ってる‪”‬悲しみの乗り越え方‪”‬を久音くんにも分かって欲しい。

1人で抱え込まないで欲しい。そう思った。

「へへっ、あんまりお外には行かせてもらえなかったけど、いっぱい遊んでくれて楽しかったっ……、久音くんのオムライスまた食べたいな」

「……」

久音くんがまた背中を向ける。

「……はい」

そう、小さく頷いてから倉庫を出ていった。