「まほ…お前……、もしかして…記憶​────」

「約束……」

「え?」

「結婚式ごっこっ」

尋ねるまでもなかった。

まるで‪”‬早く‪”‬と急かされているかのように、まほは俺の服の裾を引っ張って催促した。

あの頃と同じ。

あの頃と……

目頭がじんわりと熱くなる。

こらえる暇などなく、涙が頬を伝っていく。

レースカーテンが、まるで花嫁のベールみたいで。

確かに、これはごっこ遊びの範疇だと思った。

ーーなぁ、まほ。俺が帰ってくるまでいい子で待ってたらさ、結婚式ごっこやろうぜ

覚えてたのか……

ゆっくりと。まるでベールのようになったそれをめくる。

露になったまほの顔を見つめた。

ずっと入院中見続けてきた顔なのに、不思議と今は、少し違って見えた。

「……っ」

何の隔たりもなくなった、唇と唇。

引き寄せられるように重ねた。

それは空白の時間を埋めるかのような、長い長いキスで。

俺の中の独占欲をただ、がむしゃらにむき出しにしていくような時間だった。

ゆっくりと唇を離すと、まほはニコッと微笑みながら言った。

「ただいまっ、お兄ちゃん​────…」

ちょっと照れくさそうにへへっ、と笑うその笑顔が、愛おしくてたまらなかった。





「おかえり。まほ」