風邪を引いたまほをだっこして、うちから1番花火が見やすかったここに連れてきて。

それで……、一緒に見て。

初めて、キスした場所だ。

覚えてないはずなのに。

そういうことは、やっぱり頭のどっかで覚えていてくれているのかもしれない。

まほにとったらこの部屋だけじゃなくて、全部の部屋。

ちょっと前まで住んでた家だ。

懐かしい、と感じる所なんてもっと山ほどあるだろうに。

あの花火大会の日1回しか行かなかった親父の部屋を……懐かしい、と感じてくれている。

込み上げてくる想いに胸がやられそうになる。

まほがレースカーテンに手を伸ばした。

それを自らの方に引き寄せて、顔が隠れるようにすっぽりと被った。

カーテン越しに、まほの瞳が少しだけ揺らいで。でも俺だけを真っ直ぐに見据えている。

「?」

急に何してんだ…??

疑問に思っていると…











「お兄ちゃん​───────…」








微かに震えるまほの唇から、久しく聞いていない言葉が飛び出した。

え……

耳を疑った。

まるでそれは幻聴で、空耳で。

どっか夢みたいにふんわり鼓膜に届いた。

夕日に照らされた雫がまほの頬を伝って地面に落ちる。