まだ9月に入ったばっかりだが、もう涼しい気温が頬を撫でて、風が気持ちよく感じた。

肺いっぱいに息を吸い込みながら「こんな高いとこ初めてかも!」と、手すりに寄り掛かるまほは、目をキラキラさせながら街の景色を眺めていた。

そんな姿がまだどこか夢みたいに俺の視界に映るのは、仕方の無いことだ。

この数日。

夢、じゃないよな?なんて問いを何度自分にぶつけたことか。

「なぁ……沙奈、ちゃん」

まだ慣れない名前をたどたどしく呼ぶ。

「んっ?」

俺のことなんか覚えてない癖に。

庇う義理なんか無い癖に。

あの時まほは…

ーーもう誰にも沙奈は渡さない……っ!!!

ーーまって!久音くん!!!お願い!!やめて……!!!

刺される。

そう覚悟した矢先、まほは真っ先に俺と久音の間に立ちはだかった。

「なんで俺のこと、庇ってくれたの?」

ずっと疑問に思っていたことを尋ねた。

まほは「あぁ…」と小さく声を漏らした後。

少しだけ目を伏せながら、口を開く。

「久音くんに、誰かを傷つけて欲しくなかったし……それに…」

少し間を空けて、照れくさそうに俺を見つめた。

「悪者さんになにかあったら…、まほちゃん…が…、悲しむと思って……」

「…っ」