ナイフが食い込むお腹からは血がとめどなく溢れて、地面を赤く染めあげていっていた。

……すごく痛かった。

でも、それよりもなによりも………

心が痛かった。

サビのついた針で、何度もブスブス刺されているみたいだった。

「消えろよ……!!!」

「……もう聞くな」

悪者さんはそう言って、私の両耳に手を当てた。

塞がれた耳から、音が遠のいてく。

久音くんはまだ私に何か言っていたけど、もう何を言ってるのか聞こえなかった。

聞こえなかったけど。

多分…

罵倒されてる……。

久音くんに……

罵倒されてる………

「…ぅっ……」

苦しくて、悲しくて、どうしようもなくて。

気持ちの収集がつかなくなって。

諦めにも似た感情が押し寄せてくる。

「おい、響…っ、何があったんだよ」

「三波…っ、救急車呼べ!早く!!!」

だんだんと視界が狭くなっていく。

意識が遠のいていくのが分かった。

もう……だめ…

意識を手放そうとした時。

「まほ……っ、しっかりしろ…!」

最後に視界に映ったのは…

心配そうに私を見下ろす悪者さんだった。

悲しい気持ちに押しつぶされそうなのに、

私の身体を抱きしめる悪者さんの腕は、どうしてか…すごく温かくて、




懐かしい気がした​───────。





あれ……

ーーやだ…っ、忘れたくない……っ

私……ちょっと前…

‪”‬誰か‪”‬のこと、

すごく忘れたくなかった気がする……

あやふやな意識の中で、一瞬だけ。

そう思ったけど。

‪”‬誰か‪”‬……??

誰、だっけ……

上手く思い出せなかった。