悪者さんの腕の中で必死に息をする。

「沙奈…なんでそんな奴庇うんだよ!!!なにやってんだよ!そいつは…っ、そいつは僕と沙奈を引きはがそうとして​────」

「仲良くし…よ……いい人だよ…」

力を振り絞って震える手を久音くんに伸ばす。

久音くんは、私のたった1人の家族。

たった1人のお兄ちゃんだもん。

「久音くんには…誰のことも……、傷付けて欲しくない…」

いつも久音くんは私を思ってくれてて、守ってくれてる。

記憶がなくて不安でも。いつも久音くんがいてくれた。

大切にされてる、って何度も感じてきた。

悪者さんだって、きっとそこまで悪い人じゃない。

「久音くん……、優しい人だもん…。だから​誰かを傷付けるのは…やめ────」

笑顔を作ったその時。

久音くんが、顔を歪めて大きく叫んだ。

「こんなの……っ、お前なんか沙奈じゃない……!!!!」

「……っ、ぇ…………?」

横たわる私を軽蔑するかのような眼差しで見つめ、さらに続けた。

「沙奈はいつも僕の味方だった……っ、こんな奴!沙奈じゃない!!」

「…………なん、で…、私…さな、だよ…? くおんくんの…味方だよ……??」

「お前なんか沙奈じゃない…!!お前なんか消えろ…!!!消えろ!!」












「え……………………………………」









瞬間。

目から大粒の涙が溢れて、頬を伝った。

口の端から垂れる真っ赤な血と混ざり合って、地面に落ちていく。

消え、ろ、、、、、、、??

どうしてそんな…酷いこと言うの???

乱暴に。すごく荒々しくぶつけられた言葉が、あまりにショックで、

向けられた眼差しがあまりに冷たくて、

意味が分からなかった。

私が…悪者さんのこと、庇ったからこんなに怒ってるの…??

「お前なんか沙奈じゃない…!!沙奈じゃない!!」