朝、目が覚めれば沙奈(・・)はいた。

僕の作るオムライスを喜ぶ沙奈(・・)も。

僕の帰りを待ちわびる沙奈(・・)も。

確かにいた。

でも。

それはやっぱり、あの沙奈ではない。

僕の知る沙奈ではないんだ。

……ずっと、分かっていた。

この子が、沙奈じゃないことぐらい。

心のどっかで分かっていた。

だからあの時…

ーー久音くん!これ乗っていい!?

ーー触るな!

咄嗟に、あぁ言ってしまった。

あのブランコは…、

沙奈のお気に入りの遊具。

あそこは…、

まだ沙奈とよく行った…公園だ。

滑り台もシーソーもない。

ただ、ブランコだけが設置された質素な公園。

数年前に何かの大型ビルの建設予定地だったこともあって、撤去される予定だったがあの土地一帯うちが買取った。

沙奈との思い出が詰まったあの公園だけは、いつまでもそこにあって欲しかった。

僕は、自分で気付いていた。

この沙奈(・・)は、沙奈じゃない、って。

でも、口にしてしまえばそれは、全部消えてなくなる気がして。

目を逸らし続けた。

きっと僕はこれからも目を逸らし続けるんだと思う。