その日。

沙奈は変わり果てた姿で戻ってきた。

警察からの電話は、その件だった。

ーー財前沙奈さんが、先程遺体となって発見されました

告げられた言葉を、俺はあの時すぐに理解することが出来なかった。


案内された霊安室。

薄暗い室内。

ユラユラと揺れるロウソクの光に目がくらみそうになった。

頭まですっぽりと被せられている白い布をゆっくりとめくると、沙奈の姿はそこにあった。

「うぅ…っ、沙奈ちゃん…っ」

床に膝をついて泣き崩れる母の嗚咽。

そんな母の肩をさする父。

それはもう…

地獄のような時間だった。

「沙奈…」

僕は震える声を絞り出し、名前を呼んだ。

「……」

「沙奈…ぁ、…兄ちゃんだよ……?」

「……」

そこに暖かい温もりがあると信じて、縋るように僕は震える手を沙奈の頬に触れた。

でもひんやりとした、感覚が手のひらにまとわりつくだけだった。

ーーそうして俺は、最愛の妹を失った。

死因は喘息による発作によるものらしい。

どれだけ苦しかったか。

怖かったか。

想像すればするほど胸がはち切れそうだった。

数日後。犯人は逮捕された。

ただの金目当てでの犯行。

発作が出て死んだのは、犯人も予想していなかったことらしい。

きっと……

うちが貧乏だったら、

沙奈が誘拐されることはなかっただろう。

いつまで経っても沙奈を失った悲しみは癒えなかった。

受け入れたくなかった……。

沙奈が死んだ、なんて。

だから必死だった。

受け入れない代わりに、ひたすら荒れた。