「警察に言えば娘の命はない、って…言ってただろ…」

きっと警察に知られれば大事になって家の前にパトカーがうじゃうじゃ来るだろう。

もし…犯人がうちを見張っていたとしたら……??

警察に通報したことがバレてしまう。

下手に動いて沙奈が危険な目に合うのだけは避けたかった。

でも、沙奈はその日も翌日も家に帰って来なかった。

家に1本の電話が入ったのは誘拐された日から5日後のこと。

犯人からかもしれない。

咄嗟にそう思った。

たまたま電話の近くにいた俺は、すぐさま受話器を手に取った。

「沙奈は無事なのか……!!!沙奈は喘息があるんだ!!もし、発作が起きたら…っ」

通話相手が犯人である確証もないのに、俺は焦りに駆られるまま、口走っていた。

ずっと気がかりだった。

沙奈が今どういう環境にいるかは分からない。

でも、喘息の症状が出てきたら……

考えただけで、不安に押し潰されそうだった。

……通話相手は、犯人じゃなかった。

冷淡で淡々としたものが鼓膜に刺さる。



「もしもし、ーー警察署の者です。財前さんのお宅で間違いなかったでしょうか」



「……っ」

警察……

通話相手は、警察だった。

誘拐のことがバレたのかもしれない。

なんでバレたんだ…

バレたら沙奈の命が……

そんなことをぐるぐると考えていた。

でも、そんな必要はもうなかった。