学校が終わって、真っ直ぐ家に帰る。

ちょうど帰宅は沙奈に今朝伝えた通り16時頃になった。

「ただいま」

玄関を開けたらてっきり沙奈が飛びついてくると思っていたのに。

俺を出迎えたのは母だった。

「おかえり。あれ? 沙奈ちゃんと会わなかった?」

「え?」

「ついさっき、お兄ちゃん待つからって、外行ったと思うんだけど…」

「いや…会わなかった」

俺は急いで外に出た。

「沙奈ー!」

何度も名前を呼んで、家の周辺を探した。

なんとなく。

嫌な予感がしていたせいで心臓が直接鼓膜に届いているみたいに、バクバクとうるさかった。

結局。
どれだけ探しても近所の人に聞いても、沙奈は見つからなくて。

3時間ぐらい経った頃。

家に、1本の電話が入った。

知らない番号に身構えながらスピーカーにして母が出る。

すると聞こえてきたのは、おそらくボイスレンジャーを通しているであろう不気味な声だった。

『娘を返して欲しければ1億払え。警察に言えば娘の命はない』

それだけ伝えると電話は一方的に切られた。

ーー沙奈は身代金目的で何者かに誘拐された。

「おい! 沙奈が誘拐された、ってどういうことだ!!」

「ごめんなさい…っ、私がちゃんと見てれば…」

平常心で居られる訳なんてなかった。

父は、いつも穏やかな性格だ。

こんなふうに母に当たるような人じゃない。

ただ今はかなり動揺していたんだと思う。