「沙奈だ、って言ってるだろ!!!また、僕から沙奈を奪うのかよ……!!僕はただ……沙奈と…っ、」

そこで言葉を詰まらせた久音くんは、俯いて私の身体をさらにギュッ、と抱きしめた。

「僕はただ沙奈と生きてたいだけなのに……!!なんでどいつもこいつも邪魔すんだよ!!」

「まって!久音くん、聞いて!この人は、多分まほちゃんを探しに来ただけなの!だから、私を奪いに来た訳でも邪魔しに来た訳でもな​────」

「沙奈は黙ってろ……!!!」

空気を切り裂くような激しい怒鳴り声に全身がビクッと跳ねる。

「なんで……っ」

その声ははっきりと、拒絶されたみたいに聞こえて視界がじわり、と滲んでいく。

「なんでそんな怒るのっ、ぐすんっ、私の話も聞いてよっ!!!」

思わずムキになって、ドンッ、と久音くんの胸を押してしまった。

その反動で後ろに倒れた久音くんは、瞳を揺らして私を見ていた。


あ……っ


やってしまってから、後悔した。

私が知る限りでは久音くんに反抗したのは、この時が初めてだった。

喉の奥がヒリヒリして、目から涙が溢れていく。

地面についた自らの手のひらが、意味も分からずガクガクと震えていた。

自分で自分が嫌になる。

久音くんは私を守ろうとしてくれてるだけなのに。

謝らなきゃ…っ

「ごめんなさ​────」

「……もう…いい」

言い終わらぬうちに、ボソリと、落ちてきたその声は諦めを含んだような声色で。

顔を上げると久音くんの頬から一筋の涙が零れていくところだった。