さっきは急に意識が朦朧としちゃったけど、なんだかその間に話し声が聞こえた気がした。

よく聞き取れなかったけど……。

「あの人……‪”‬まほちゃん‪”‬って子探してるみたいだった。見つかったかな…」

久音くん以外の人とお話したのは初めてだったし、急に話し掛けられてびっくりしちゃたけど見つかってるといいな。

そんなに私と顔似てたのかな。

と、いろいろ考えていると、いつもよりも低いトーンで真剣な眼差しが向けられる。

「沙奈。よく聞いて?」

「?」

「あいつは、狂乱火の敵なんだ」

「えっ……?」

視線を下げると久音くんの拳が小刻みに震えている。

「うちを潰そうとしてる。だから忘れろ」

「な?」と付け足して、いつも通りの笑みを浮かべる久音くん。

その姿に少しだけ空気が和んだ気がしてホッとする。

「悪者? ってこと??」

「あぁ」

狂乱火の……敵…

ーーまほ……っ

あの時。

私のことを見つめたあの人は……

なんだか、今にも泣き出してしまいそうな顔をしていた。

悪い人には見えなかった、けど、、な…。

「分かった!忘れるね」

何よりも未だ悩ましげな表情を浮かべる久音くんがなんだか心配だった。

暴走族の世界はよく知らないけど、きっと大変なんだと思う。

縄張り?争い、とかよくあることなのかもしれない。

私は笑顔を浮かべて、久音くんの手を握った。