「久音……テメェ…」

ガシャン!とフェンスに掴みかかった三波の姿と…

「動かないで下さいね。三波さん。響さん」

余裕げに笑う久音の姿が、どこか不鮮明に視界に飛び込む。

「まだ探してたんですね。しつこいなぁ。もう諦めたのかと思ってましたよ」

この瞬間。

俺は全てを理解した。

久音は…俺たちを裏切っていた。

あの日。
うちに侵入し、部屋を荒らし、まほを連れ出したのも久音が誰かに指示したことだろう。

そうだ…。

ーーいやー。久音が今日は結成日ですよね!お祝いしましょう!って言ってきたんだよ

そもそもあの日、口実をつけ俺を倉庫に呼び出したのだってまほが狙いだったんだ。

疑念が確信に変わっていく。

それにさっきのまほのあの様子……

俺の事を……覚えていなかった。

久音が何かしたに違いない。

混乱と苛立ちと後悔。

言葉にしがたい醜い憎悪が一気に湧き上がってきた。

「……まほを返せ」

震える声が……、喉から落ちた。

気付けば、血が滲むほど拳を握りしめていた。

「嫌です」

「望みはなんだ……!!」

ついに俺は声を荒らげた。

「ははっ、」

向けられた乾いた笑みに、殺意さえ湧いてくる。

あの日、弟子になりたいフリして来たのも……

全部この為かよ…っ

「望みなんて、とんでもない。僕はただ沙奈と2人で静かに暮らしたいだけです」