少し前は手を伸ばせば届く距離にいたのに。

今あるのは、俺とまほを阻むかのように立ち塞がる高いフェンス。…それだけだった。

黒いモヤがどんどん覆っていく。

目眩がするような事実に胃の奥がズンと沈んでいくようだった。

経ってしまった月日があまりに長すぎて、目の前にいる女の子がまほだと頭では分かっていても、違うんじゃないか。

俺が‪この子に”‬まほであってほしい‪”‬と変な希望を押し付けているだけなんじゃないか。

そもそもこの子は……俺の幻覚なんじゃないか。

よく分からないグルグルとした思考に飲まれて、脳がどんどん消極的な方に錯覚していく。

​────と、その時。

まほの横から人影が蠢き、姿を現した。

驚きのあまり声が出なかった。

だって……そこにいたのは、

久音だったのだから。

「んっ……」

久音はまほの背後に回り込み、麻酔薬でも染み込ませているであろう布切れを押し付けるようにまほの口元に当てた。

「まほ…!!」

まるで来るなと妨害されているかのようなとても乗り越えられない高いフェンスに、俺達は為す術なく、一瞬でまほはぐったりと意識を失い久音の腕の中だった。