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 クルトの目尻のホクロを見ながら、リセは十年前の約束をぼんやりと思い出した。「彼は律儀な性格だったのだなあ」と……

 いや、それよりも。クルトはどのようにして屋敷の中まで入ってきたのだろう。いつからあの場所でリセとクラベルの話を聞いていたのだろう。
 リセはクルトの事を『将来を誓い合った男』として……いずれパートナーとなる男のように話し、クラベルを信じ込ませようとしていた。
 聞かれていてはまずい。失礼が過ぎる。

「ク、クルト……ちょっと話が……」
「リセ、言葉を慎みなさい」

 クルトに話しかけようとしたリセを、父の声が制した。視線を部屋の入口まで戻すと、そこには舞踏会に出かけたはずの父が息を切らして立っている。

「お父様。どうされたのですか、舞踏会は」
「リセ……その方はディアマンテ王国の第二王子、クルト殿下でいらっしゃる」

 ぜえぜえと扉に寄りかかりる父の言葉に、リセとクラベルは息をのんだ。



「ディアマンテ王国の第二王子……?」

 あの、りんご色のクルトが?

 余計な一言が飛び出そうになり、リセは思わず口をつぐむ。

 ディアマンテ王国といえば、我がエスメラルダ王国の隣に位置する大国だ。エスメラルダ王国は商業の発達した豊かな国だが、対するディアマンテ王国は魔法技術で世界を圧倒する魔法大国であった。

「フォルクローレ伯爵、案内感謝する」
「いえ……。リセ、粗相のないように。クラベル、お茶を」
「は、はい!」