リセが七歳の頃。
城では何度か、子供だらけのお茶会が開かれた。
ただ『お茶会』とは名ばかりのもの。実質は、我がエスメラルダ王国の王子と同世代の子女ばかりを集めた『婚約者選び』及び『側近候補選び』の場だったのだが。
そんなわけで、そのお茶会が穏やかであるはずが無かった。
子供といえど、そこは貴族。毎回、繰り広げられる火花散るバトル。口を開けば回りくどい蹴落とし合い。出来上がってゆく派閥。
皆、感心するほど貪欲であった。『婚約者』の座を射止めようと、『側近候補』の席を掴み取ろうと。
早々に婚約者レースから脱線してしまったリセは、暇だった。
王子の『婚約者』という立場に興味もなく、自身にその資質があるとも思わない。常に「なぜ自分はここにいるんだろう」と、ぼんやりしていた。唯一楽しみにしていたのは、城の美味しいお菓子だっただろうか……
そんな時。会場の端っこに見つけたのだ。自分と同じように、『側近候補』のレースから脱線した少年を。
赤い髪、白い肌、茶色の瞳。
ひとりぼっちの、異国から来た少年。
それがクルトだった。
風の便りで、彼は自国へ帰ったと聞いていた。だからクルトは遠く離れた『どこか』にいるはずだった。
こんなところにいるはずが無いのに。
「本当に、クルトなの?」
「ああ」
十年という月日で、クルトは別人へと変貌を遂げていた。
あんなに華奢だった身体は骨張ってスラリと高く、柔らかだった頬も、今は肉付きも少なく美しい顎へのラインを描いている。
「なんでこの国にいるの。自国へ帰ったって聞いたけど」
「リセに会いに来たのだが」
しん……と場が静まり返った。
「会いに……? わざわざ、私に?」
「また必ず会おうと、約束しただろう」
さも当たり前のように、クルトは答えた。
『将来を誓い合った男』は、本当に現れた。
フォルクローレ伯爵家へ、それはそれは突然に。
城では何度か、子供だらけのお茶会が開かれた。
ただ『お茶会』とは名ばかりのもの。実質は、我がエスメラルダ王国の王子と同世代の子女ばかりを集めた『婚約者選び』及び『側近候補選び』の場だったのだが。
そんなわけで、そのお茶会が穏やかであるはずが無かった。
子供といえど、そこは貴族。毎回、繰り広げられる火花散るバトル。口を開けば回りくどい蹴落とし合い。出来上がってゆく派閥。
皆、感心するほど貪欲であった。『婚約者』の座を射止めようと、『側近候補』の席を掴み取ろうと。
早々に婚約者レースから脱線してしまったリセは、暇だった。
王子の『婚約者』という立場に興味もなく、自身にその資質があるとも思わない。常に「なぜ自分はここにいるんだろう」と、ぼんやりしていた。唯一楽しみにしていたのは、城の美味しいお菓子だっただろうか……
そんな時。会場の端っこに見つけたのだ。自分と同じように、『側近候補』のレースから脱線した少年を。
赤い髪、白い肌、茶色の瞳。
ひとりぼっちの、異国から来た少年。
それがクルトだった。
風の便りで、彼は自国へ帰ったと聞いていた。だからクルトは遠く離れた『どこか』にいるはずだった。
こんなところにいるはずが無いのに。
「本当に、クルトなの?」
「ああ」
十年という月日で、クルトは別人へと変貌を遂げていた。
あんなに華奢だった身体は骨張ってスラリと高く、柔らかだった頬も、今は肉付きも少なく美しい顎へのラインを描いている。
「なんでこの国にいるの。自国へ帰ったって聞いたけど」
「リセに会いに来たのだが」
しん……と場が静まり返った。
「会いに……? わざわざ、私に?」
「また必ず会おうと、約束しただろう」
さも当たり前のように、クルトは答えた。
『将来を誓い合った男』は、本当に現れた。
フォルクローレ伯爵家へ、それはそれは突然に。