「リセ、良くやった」

 父は書斎でリセを迎えた。
 心配症な父だが、それはそれは輝くような笑顔で。こんなにも明るい父は久しぶりだった。このところ、クルトのことで心配を掛け通しであったから。



 帰宅後、リセは父にすぐ報告をした。
 彼から婚約の打診を受け、そしてリセはそれをお受けしたと。

 するとどうだ。父はリセを抱きしめ、泣きながら喜んだのだ。何度も何度も大きな「良くやった」が、部屋に響き渡った。

「クルト殿下は大国ディアマンテの第二王子、別にエスメラルダの者と繋がらなくても困らぬほどのお方。にも関わらずわざわざリセへ求婚してくださった。お前はなんて幸せ者なのだろう」

 父の、大袈裟なまでの喜びよう。クルトとリセの縁談は、これほどまでに望まれているものだったのか。
 クルトへの返事は間違っていなかったのだと、リセは安堵したのだが。
 
「これで、エスメラルダも安泰だ。良かった良かった」

 リセは返事が出来なかった。
 父の顔を見ることすらも。