グラタンをごくりと飲み込むと、セリオンはクルトへ向き合った。そして大袈裟に頭を下げる。

「クルト殿下、申し訳ありませんでした。もう、俺がリセに触れることは無いでしょう」
「本当か」
「はい。さすがにリセ本人も、その他ご令嬢方も、殿下のご意向に気付いたでしょうから」

 突然、本人を前にしてなんてことを言うのだセリオンは。
 思わずクルトを見てみると、真顔の彼と目が合った。みるみるうちに頬が熱くなってゆく。

「俺、殿下とリセには恩があるんですよ。ぜひ二人には幸せになって貰わないと」
「……恩とは?」
「俺が好きな子と婚約できたのは、二人のおかげですから」



 セリオンと、彼の婚約者……彼らも、十年前のあのお茶会で出会った。

 幼いセリオンは、天使のように可愛らしい彼女に一目惚れをした。
 しかしそのご令嬢は、とても控えめな性格だった。隣に座っても何も話せない、目も合わせることが出来ない。
 セリオンは困った。これは彼女に近付く以前の問題だと。

 そんな時、セリオンの目に入ったのがクルトとリセの二人。
 しばらく観察していると、どうもクルトは子供ながらにして魔法の使い手のようで。彼の小さな風魔法に感動したリセが、何やらもっともっとと頼み込んでいる。

「お、俺たちも見に行ってみない?」
「えっ……」

 セリオンは思い切って彼女の手を取った。
 彼女は驚きつつも、その後をついて歩く。

「あっ。セリオン達! 見て、クルトの竜巻!」

 お茶会の片隅で。
 リセはいそいそと落ちていた花びらをかき集めた。そしてクルトに向かって大きく合図を送ると、クルトは軽く頷き、指を鳴らす。

 すると……すぐそこにくるくると立ち上る小さな竜巻。
 風に吸い取られ舞い上がった色とりどりの花びらが、幼い彼らを釘付けにした。

「す、すごい……」

 セリオンは、彼女の笑顔を初めて見た。
 舞い落ちる花びらを、楽しそうに見上げる彼女。頭に降った花びらをセリオンが取り除くと、やっと二人は目が合った。目と目が合うと、お互い自然と笑い合って。

 そこからだ、セリオンと彼女の関係が始まったのは……