「すまなかった」
「え?」
「怖かったか」

 なんと。隣国王子ともあろう御人が、謝った。
 ……魔法について謝っているのだろうか? それともクルトが怒ったこと自体について?

「怖かったですよ」
「そうか……すまない」
「あっ。でも怖さで言えば、先日の風魔法の方が怖かったですね……」

 あの突風は怖かった。傍若無人なセリオンですら怖がって逃げたくらいだ。
 それに較べたら今日の浮遊魔法など全然なんてことない。自分の身体がまるで風船のように浮かび上がり、なんとも不思議な感覚で……

 クルトの魔法には驚かされる。不思議で、すごくて……それは今も昔も。

「今日はびっくりしました。昔は私の身体なんて浮かび上がらなかったのに」
「……覚えているのか」
「ええ。お城の裏庭で私がクルト様に無理をお願いして、でも浮かび上がらなくて」
「ああ、そうだった」

 クルトはフッと笑った。



 朝の気まずさは一体どこへ消えてしまったのだろうか。リセとクルトは、昔話に花を咲かせる。
 二人はしばらく、あの頃の姿に想いを馳せたのだった。