二人きり、揺れる馬車の中。
 あの日から、リセとクルトの間には微妙な空気が流れている。



 リセは罪悪感の塊になっていた。

「皆と親睦を深めては」とクルトへ提案したのは、世話役であるリセ――自分だ。
 彼はその提案を素直に受け入れ、留学生活に馴染もうとしているだけだった。なのに……あろうことか嫉妬してしまうなんて。自分勝手にも程がある。

「リセ」
「は、はい」
「着いたぞ」

 馬車が学園に到着したことにも気付かぬくらい、今日も車内は気まずい雰囲気に包まれていた。

 いや……目の前で足を組むクルトは、特に何も変わらない。
 毎日、朝は馬車で迎えに来て、馬車内ではなにも喋らず、帰りも馬車でフォルクローレ伯爵家へリセを送る。本当に何も変わらないのだ。

 気まずさを感じているのはリセだけなのだろうか……先に馬車から降りるクルトの背中は、何も教えてはくれなかった。