「寂しいじゃありませんか。リセお嬢様だけ、舞踏会にも行かずお屋敷でひとり。惨めじゃありませんか」

 まただ。少々感情的なクラベルは、何かあれば必ずこれだ。悪気がないのは分かっているが、こんな時は必ずリセの「独り」「惨め」を強調する。

 そんなこと言われても……リセには相手もいないのだから仕方が無い。でもそのまま返すのはクラベルをもっと心配させてしまうから、リセは決まってこう返すのだ。

「そんなことないわ。私には将来を誓い合った人がいるんだもの」

 リセはにっこりと笑顔を作った。嘘だと見破られないように。
 いや……厳密にいえば、嘘では無いのだが。

「毎回そう仰いますけど。嘘でございましょう? だって一向に現れないではありませんか。その『将来を誓い合った方』が」
「嘘じゃないわ。本当よ」

 本当に、本当だ。
 ただしそれは、大昔。十年前。
 リセが七歳の時だった。

「ではどんな方でいらっしゃるのですか。お嬢様、教えて下さいな」
「す……素敵な人よ」

 クラベルは『将来を誓い合った男』の存在をまるきり信じていなかった。彼女はずっとフォルクローレ伯爵家で働いているけれど、その男は一度も姿を見せない。そんなことがあるはずは無いと。

「そうですか、そうですか」
「……赤い髪で。魔法が使えて、とっても素直で」
「さようでございますか。それで、その方はどちらにお住いで?」
「どちらに……って……」

 リセに分かるはずがない。だって十年前に『将来を誓い合った』っきり、彼とは会っていないのだから。
 言葉に詰まったリセを見て、クラベルは憐れむように笑った。

「ほら、嘘でございましょう? そのような架空の殿方は」
「い、いたのよ、現実に」
「ですから、どちらに…………」

 疑り深いクラベルが、突然リセの背後を見て口をつぐんだ。

「クラベル?」
「…………」

 信じられないものを目にしたような顔のまま、リセの向こうを見るクラベル。様子のおかしい彼女の視線を追って、リセも背後を振り返った。