学園中が喧騒に包まれる昼下がり。

「クルト殿下、囲まれてるね」

 ひと気の無い壁際で佇むリセのそばに、同級生のセリオンがやって来た。
 中性的な彼は、リセが気を許せる数少ない友人。昔からの幼なじみだ。

 そんな彼が視線を向けるテニスコートには、テニスを教えるクルトと周りに群がる女生徒達。彼がラケットを振るたびに、息ぴったりの黄色い歓声が聞こえてくる。
 


 クルトの留学生活もようやく一ヶ月が経とうとしている。

 彼にもリセ以外の生徒達と交流を持つ時間が増えてきて、リセがつきっきり……というわけでも無くなった。
ただ、世話役のリセはクルトのそばを離れるわけにもいかず、でもあのご令嬢達に近づくことも憚られて……結局、少し離れた場所からその光景を見守るしか無い。

 そんな時はこうして、今までリセに近づくのを遠慮していた友人達が、話しかけてくれるようになったのだ。

「俺、クルト殿下のお顔覚えてるよ。昔お茶会に参加されていたね? リセがべったりくっついていた、赤髪の」
「私も、王子様だなんて知らなかったのよ」

 セリオンも同い年の伯爵令息。十年前のお茶会にはもちろん参加していた。
 彼は王子の側近候補にはなれなかったものの、あの場でとても可愛らしいご令嬢と出会った。そして早々に婚約した、とてもちゃっかりした男だった。

「さっきから殿下、あの女子達にべたべた触られてるよ。いいの?」

 リセも見ている。クルトの周りを取り囲むご令嬢方が、テニスを言い訳にして彼に触れている場面を、それは沢山。