クルトによる影響が出ているのは、昼休憩だけでは無い。
 放課後も同じ現象が起こっている。

 律儀なクルトは、管弦楽団へも同じように顔を出していたのだが。
 最初は敬遠されてしまった。あまりのレベルの違いから、一緒に演奏するなどおこがましいと。

 遠慮されてばかりのクルトは、自ら演奏することにした。
 旋律の練習をする楽団員のメロディーに、セカンドバイオリンとして和音を奏でたのだ。
 隣国王子によるピタリと寄り添うハーモニーに、団員達は驚き、そして感動で震えた。

 後にその楽団員は語る。
「あんなに気持ちの良い演奏は初めてだった」と。

 クルトとデュエットを組むことはたちまち管弦楽団達の『憧れ』となった。今や彼とのデュエットに順番表まで作られてしまったという……



 今日もクルトの隣には、のびやかに旋律を奏でる楽団員の姿。周りには、瞳を輝かせながら演奏に聴き入る楽団員達。
 静かに演奏が終わると……音楽室の中は拍手で埋め尽くされた。中には目尻に涙を浮かべる者まで。

「ありがとうございました、クルト殿下」
「こちらこそ楽しかった、礼を言う」

 クルトがデュエット相手に握手をした途端、その者は「きゃあ」と叫ぶと、へろへろにへたり込んでしまった。これもここ毎日の事である。

 親睦を深めるためのものだったはずが、思わぬ方向へとエスカレートしてしまっていた。
 リセは離れた場所から、ぼんやりとその光景を眺めていた。