「クルト様は、ひと通り嗜まれていらっしゃるのですね……」

 テニスとバイオリンだけで、もう分かってしまった。
 クルトが皆と肩を並べて楽しむことなど不可能であると。受けてきた教育が、実力が、レベルが。何もかも違ってしまっている。
 リセの思いを見透かすように、クルトが笑う。

「今日も楽しかった」
「本当ですか?」
「ああ。テニスも、バイオリンも」
「本当に、本当ですか」
「リセが楽しいと言うものは、大体楽しい」

 リセを優しく見下ろすクルトに、虚を衝かれてしまった。
 そしてやっと気付いた。自分が昔と何ら変わらず、クルトを振り回していることに。

 十年前のお茶会でも、「楽しそう」と言ってはクルトをあちこちへ連れ回していたことを覚えている。
 なんて無礼な……と思うが、よくよく考えれば今だって同じ事をしているではないか。リセの「きっと楽しい」という一声で、テニスに混ざり、管弦楽団に顔を出し……

 (クルト様、私を信用し過ぎでは……)

 

 クルトは、十年前「楽しかった」という記憶を今も大事にしてくれている。

 それを感じるだけで、やはりリセの胸はほんのりと温かくなるのだった。