「……美味しゅうございますね」
「クラベルはそう言ってくれると思っていたの」
「私のような者にまでこのような……リセお嬢様は本当にお優しい」

 甘く美味しいチョコレートを口の中で堪能していたリセの胸に、罪悪感が掠めた。
 実は、自分はそんな優しい人間では無い。とっておきのチョコレートを食べたくてたまらなかっただけ。そこにクラベルを巻き込んだだけ。こんなに美味しいものを、一人で食べるなんて罪深いじゃないか。

「私、このチョコレートをクラベルと食べたかっただけよ」
「それがお優しいというのです」
「そうかしら、食い意地が張っているともいうわ」

 甘いものに目がないのは母だけではない。リセだって同じだった。昔はよく母のお菓子をこっそりと食べて怒られたりしたものだ。

「そんなことありません。こんなにもお優しいリセお嬢様にだけ婚約者がいらっしゃらないなんて……旦那様も奥様も、何をお考えなのでしょう」
「ついこの間、マリナの婚約が決まったばかりじゃない。私にもいずれ当てがって下さるわ」

 そう。最近、妹マリナの婚約が決まった。お相手は家同士でお付き合いのあった伯爵家長男。父が持ってきた縁談だった。

 正直なところ、リセは少しばかり傷付いた。順番でいうなら、姉ペルラの次は自分だと思い込んでいたのに。両親が縁談を持ってきたのは妹にだった。
「リセにはリセにぴったりの縁談があるから」と両親には誤魔化されたが、もしかしたら相手側がリセより妹マリナを望んだのだろうか。結婚に対して特に憧れは無いけれど、その日は「なぜ」「どうして」と、ぐるぐる思い悩んだりしたものだ。