翌朝も、王家の馬車はフォルクローレ伯爵家までやって来た。わざわざ、世話役のリセを迎えるために。

「おはようございます、クルト様」
「……顔色が悪いな」

 リセは昨日の夜、どうしても眠ることが出来なかった。
 父から話を聞いた後から、動悸が治まらなかったのだ。自分が気付かぬ間に、国と国が絡むほど大きな渦中に身を置いていた事。それが不安で、恐ろしかった。

「少し、夜眠れなかったので……」
「馬車の中で少し寝るといい。着いたら起こそう」
「そんなわけには参りません」

 クルトの厚意をリセはきっぱり辞退した。昨日の二の舞になる訳にはいかない。クルトは、昨日の挽回をしようとするリセを見て薄く笑顔を作った。

「昨日のことは気にしなくていい」
「気にします、当然のことです」
 リセの顔が赤くなればなるほど、クルトの笑みは深くなる。リセには分かった。うろたえるリセを見て楽しんでいるのだと。
 
「仕方がない」

 クルトはそう呟くと、不意に指を鳴らした。
 
 途端に暗転するリセの視界。
 そこからはどうなったのか、覚えていない……