「詳しく話を聞かせなさい」

 しばらく恥ずかしさで身悶えていたリセは、再び父から呼び出された。そして今、こうして父の書斎に立っている。
 クルトは許しても父は許さない。そういうことなのだろう。

「クルト様の留学初日が無事に終わり、気が抜けてしまって……気がつけば馬車の中で寝てしまっていたのです。申し訳ありません」
「ああ……それについても言いたい事は山程あるが、私が聞きたいのはそこでは無い」

 リセを叱りとばしたい気持ちをギリギリ抑え、父は話を続けた。彼女をここへ呼んだのは、どうやら寝落ちについて叱責するためでは無いらしい。

「リセはクルト殿下と、どういった関係だ」
「どういったと言われましても……私はお世話役を仰せつかっておりますが」
「世話役を、殿下自ら抱えるのか」

 馬車から出てきたクルトに、父は目を疑ったらしい。
 我が娘が隣国の王子に抱えられている、嘘のような光景に。父が平謝りしてみてもクルトは「謝る必要は無い」と言うし、挙句リセを部屋まで運んだ。まるでそれがクルトの役割だと言わんばかりに。

「クルト殿下からは、何も無いのか」
「何もありません。当たり前です!」

 リセは、先ほどのことを思い出してしまった。髪を撫でていった、彼の指先を。