「リセお嬢様。目が覚めたら、旦那様が応接室までいらっしゃるようにと」
「む、無理……。私行けない」

 怖すぎる。父からも、あれほど『節度を持って』と念を押されたというのに。
 リセが散々ごねていると、ついに部屋のドアがノックされた。十中八九、父である。どうしようか。もう一度、寝たふりでもしてしまおうか。

「クラベル、開けないで」
「何を仰いますか。リセお嬢様、開けますよ」

 無情にもクラベルがさっさと扉を開いたので、リセは思わずブランケットに潜り込んだ。
 往生際の悪さは自覚している。うじうじとこんな事をしていたって、リセの失態は消えやしないのに。隠れても、父と思われる足音は近付いてくる。

 足音はベッドのそばでピタリと止まり、どうやら椅子に腰掛けたらしい。



「リセ」

 心臓が飛び出でるかと思った。
 聞こえてきたのは父の説教では無く……今日一日隣で聞いていた、彼の声。

「……クルト様!」