あまりの出来事に固まっていたクラベルは我に返り、父と共に部屋を後にした。
 部屋に残されたのはリセとクルト、そして……とっておきのチョコレート。

 (ど、どうしましょう……)

 あの可愛いクルトが、まさかこのようなやんごとなきお方だったなんて。城のお茶会に参加するくらいなのだから名家の御令息なのだろうとは思っていたが、なんと隣国の王子だったとは。

 七歳のリセは何も知らなかった。知らなかったとはいえ……当時クルトに何をしただろう。
 隣国の王子相手に気安く話しかけ、得意げにエスメラルダの言葉を教え、べったりと纏わりつき、お腹いっぱいと言うクルトへ更にお菓子を勧め、城の庭を連れ回し、魔法を見せろと無理を言い……

 (お父様ごめんなさい……もう既に粗相だらけだったわ……)

 身体中から体温が無くなってゆく。青い顔をしたリセを見下ろしていたクルトは、おもむろに向かいのソファへと腰を下ろした。

「これは?」

 クルトはテーブルの上のチョコレートを一粒摘むと、ためらい無く口の中へ放り込む。

「旨いな」
「それは……今エスメラルダ王国で評判のチョコレートなのです。ひと月ほど予約待ちをして、やっと入手できるほどの」
「リセもメイドも、旨そうに食べていたな」



 その言葉で全てを悟った。
 クルトは最初から、全て聞いていたのだと。