「……知ってたの? 私が一葉さんのマンションの近くにいたのに気付いて、あんなことをしたの?」



「さあ? まあ、あたしがしたかったから、一葉にキスしただけなんだけど、日和はショックだったみたいね」



「……だから何?」



「だって、ショックを受けたから、こんな人目の付かない所まで逃げて、こっそり隠れて泣いてたんでしょ? 大好きで大好きでたまらない一葉が、あたしとキスしてるところを見ちゃったから」



「……っ」



「あれ? 図星? でも、ざーんねん。一葉のことは諦めてよね」



「は……? 何で……」



「だって一葉はもう、あたしの婚約者なんだもん」



婚約者――その言葉に、ものすごい勢いで振り下ろされた鈍器で、頭をガツンと殴られたような気分になった。



口を開く気力もなく黙り込んでいると、ノアがマウントを取ったように、にっこりと満面の笑みを浮かべる。



「今日のお見合いで決まったの。あたしと一葉、結婚することになったんだ」