もしかして、私に対する嫌がらせ? と一瞬思ったけれど、一葉さんの薄い唇から聞こえるすうすうと規則正しい寝息が聞こえてくるから、わざと迷惑をかけているわけではなさそうだ。



うん。これ完全に寝てるよね。



もう夜も遅いし、お腹もいっぱいだろうし、眠ってしまうのもわからないではない。



それにしても、一葉さんってば。寝顔も綺麗だなんてずるいよな……。



伏せられたまつ毛は羨ましくなるほど長くて、乾燥知らずの唇はつやつやしていて。



なんだかしばらくじーっと見つめていたくなるほど、一葉さんの寝顔に惹かれて、ドキドキしている自分がいる。って――……。



「あー、もうやだ。自分が嫌だ……」



一葉さんには本当に、心も心拍数も乱されてばっかりだ。



はあっとため息をついた私は、何も知らずにすやすや眠っている彼から視線をそらして、窓の向こうの景色を見つめた。



流れていく無数の街の光はあまりにも幻想的で、まるで星空の中を車で走っているみたい。



――あーあ。一葉さんも起きてたら、一緒にこの景色を見れたはずなのに……。



って、何でそこで不満になってるの、私。一人で堪能すればいいじゃん。



心の中でそう呟いてため息をついた私は、すっかり熱くなった額を窓ガラスに押しつけた。