「お、お疲れさまっ」


「お疲れー、待っててくれたの?」


「あ、う、うん」


「そっか、ありがとな。じゃ、帰るか」


「うん…」


 二人並んで夕焼けの桜並木を歩く。


 私は、もう一度言ってみようと思っていた。


 嘘なんかじゃない、本当の気持ち。


「ねえ、(はる)


「ん?」


「……好き、です」


 また勘違いされて終わっちゃうかな。


 エイプリルフールの嘘だと思われちゃうかな。


 それでも私は、素直にまっすぐ伝えたいと思った。


 いつも支えてくれる君。優しくて明るい君。いつも元気をくれる君のことが大好き。


 この気持ちをちゃんと伝えたい。


 彼は私を振り返って、大きく目を見開いた。


 一瞬驚いていたかと思えば、少しいたずらっぽく笑う。


「うん、俺も」


「え…?」


「俺も、咲季のことが好きだよ」


「え……」


 彼の口から紡がれた言葉に、私は息を呑む。


 あれ、でも、もしかして……。


「…え、エイプリルフールの嘘?」


 夜中の仕返し、みたいなものだろうか。


 彼は変わらず楽しそうに笑っている。


「咲季、知らないの?」


「え?」


「エイプリルフールの嘘は、1日の午前中まで。午後はネタ晴らしなんだよ」


「そ、そうなんだ…」


 知らなかった。嘘は午前中で終わりなんだ。


 ということは、今の彼の告白は………。


「嘘じゃないよ。俺は咲季が好き。この気持ちは、嘘なんかじゃない」


 春が、私のことを好き…?


「一晩寝て冷静に考えてみたら、咲季がエイプリルフールだからって、嘘の告白なんてしないだろうなって。あの時の咲季、すげー顔真っ赤だったし」


「え、えっと…」


 きっと今も顔が真っ赤に違いない。頬に熱が集まっていくのが自分でも分かる。


「素直に受け取れなくてごめん。せっかく勇気出して言ってくれたのに」


「あ、ううん」


「だから俺も素直にちゃんと伝えようって思った」


 彼は私に一歩近付くと、優しく私の手を取った。


「咲季、好きだよ」


 彼の穏やかな声が、静かな住宅街に響く。


 真っ赤になった顔を見られるのが恥ずかしかった。


 だけど、私も彼の顔を見てちゃんと伝えたい。


「わ、私も、春のことが大好き」


 見上げた彼の顔は、見たこともないくらいに真っ赤だった。


 きっとそれは、夕焼けのせいだけではなかったと思う。




終わり