「好きです」


 思わずそう口にしていた。


 4月1日、深夜0時。


 その日は満天の星が輝く、空気の澄んだ心地の良い夜だった。


 庭にある桜の木が満開に花をつけて、月明かりに照らされたそれがあまりに綺麗で。


 君と話しているのがつい楽しくて、ああ、好きだなぁ、なんて思っていたら、口からぽろっと零れてしまっていた。


 私と彼はお隣さんで、幼なじみ。


 私は自室のベランダで、彼も同じく自室のベランダにいた。


 家はほとんどくっついていて、手を伸ばせば君に触れられそうな距離。


 彼のことが好きだと気が付いてから、もうどれくらいになるだろう。


 私はこの春、高校二年生に進級するけれど、この片想いに進展はない。


 ……はずだったのに、気付けば私は、彼に告白してしまっていた。


「え…?」


 私の言葉が聞き取れなかったのか、それとも私の急な告白に戸惑っているのか。


 彼は驚いたように私を見ていた。


「あ、いや、今のは…」


 次に進む覚悟も、終わる覚悟もできていなかった。


 私は慌てて前言を撤回しようとするも、なかなかその言葉が見つからない。


 冗談だよ~と気軽に言えたらいいけれど、あまりに本気すぎてそんなこと絶対に言えない。


「え、えっと…」


 告白した私の方が戸惑っていると、彼は「ああ!」と言って手をぽんっと打った。


「なあんだ、びっくりした」


 一人納得する彼に、今度は私の方が首を傾げてしまう。


「エイプリルフールね、確かにもう1日の0時だ」


「え?」


 彼は自分の腕時計を見ながら、うんうん頷いている。


 私もポケットに入れていた自分のスマートフォンで時刻を確認した。


 4月1日0時10分。


「あ…」


 そっか、今日はエイプリルフール…!


咲季(さき)がそんなこと言うなんて、なんか変だなって思ってたんだ」


「え…」


「だって咲季は、好きな人いるもんな」


「好きな人…?」


「ほら、バスケ部の先輩の。咲季、いつも応援に来てるだろ?」


 バスケ部の先輩の応援。それは私の友人の話だ。友人はバスケ部の先輩が好きで、私もいつも彼女に付いていって、体育館に行く。


 でもそれは、バスケ部の君を応援に行っているんだよ。


 彼は少し寂しそうに眉尻を下げると、何かをぼそりと呟いた。


「…なんだ…本当に告白されたのかと思った…」


 誤解を解きたいのに、上手く言葉が出てこない。


 違うよ、私が好きなのは君だよ。


 告白はエイプリルフールの嘘なんかじゃないよ、本当の気持ちなんだよ。


 そうはっきりと、素直に気持ちを言えたなら。


 でも結局私は、その言葉たちを飲み込んでしまった。


「遅くなっちゃったな、じゃあ、おやすみ」


「あ、うん…おやすみ…」


 部屋に入って行く彼を見送りながら、私はため息をついた。


「私の、意気地なし……」