(目覚めたら、名を聞こう)

 起き上がった後のことを想像するだけで気分が高揚する。

 煉魁は顔を緩ませながら、幸せな時を過ごすのだった。

 一方、人間の世話を仰せつかった扶久はというと……。

(あやかし王は、部屋の外で待たれるおつもりなのか。どこかで暇つぶしでもしてくればいいものを)

 早くしないといけない重圧を感じ、気が滅入る。

(まあ、いいや。ゆっくり丁寧にやろう。私の命が懸かっているわけだし)

 曲桶に入った温かな湯と布を準備し、布を丁寧に絞って、琴禰の手をそっと拭いていく。

(良かった、深く寝ているようだ)

 起きる気配がなかったので安心する。この様子だと、全身を拭いて着替えさせても起きないだろう。

 とはいえ命が懸かっているので雑にはできない。細心の注意を払ってやらなければ。

(どうしてこんな重役をやるはめになったのか)

 扶久が任命されて、さぞかし他の侍女たちは安心しただろう。誰も人間の世話なんて進んでやりたいとは思わない。