下界に人間と呼ばれる弱き者がいると聞いたことがある。その姿は、あやかしそっくりらしいのだが、力もなく命も短い。

 勢いよく早鐘を鳴らすように鼓動が動く。

 初めて感じる胸が高鳴るほどの甘い悦び。この感情は一体……。

(愛おしい)

見ているだけで幸せな気持ちになる。触れるだけで体が熱くなる。

 この者を守りたいと思った。

「あなたは、誰?」

 艶めくような唇から、掠れた声で必死に紡ぎ出された言葉。

 煉魁は慈しむような優しい眼差しで、問われたことに答えた。

「俺は、あやかし王だ」

するとその者は、大きく目を開いて、そして気を失った。そこで力を使い果たしてしまったようだ。

 抱きかかえながら彼女に魔力を与える。すると、傷だらけだった体は綺麗に治り、頬に赤みが差してきた。

 安心したように眠る彼女を抱きかかえながら、大切に、大切に運んでいく。

 なぜあんなところに人間が倒れていたのかはわからない。

 けれど、とても希少な宝を手に入れた気持ちだった。

感じたことのない幸福感に包まれながら宮中へと戻った。