(妖魔か? 命知らずな)

 異物は排除しなくてはならない。あやかしの国はどこよりも煌びやかで美しくあらねばならないのだ。

 一足飛びで雲海を駆け抜ける。あっという間に異物を感知した場所に着くと、そこには雲海に半分が沈んで横たわっている体が見えた。
 一見すると妖魔の類ではない。

(誰だ?)

 とても弱っていて、今にも生命力が尽きそうだ。

(これは、なんだ?)

 あやかしでもない、妖魔でもない。衣はボロボロに破け、体も傷だらけだ。

「おい、大丈夫か?」

 声を掛けるが返答はない。とりあえず、ひょいと横抱きにして持ち上げてみたら、息が止まるほど驚いた。

 こんなに美しいものは見たことがない。小さな顔に白磁の肌。長い睫毛に縁取られた瞳は魅惑的な色気を放ち、真珠の煌めきのような小さな唇に吸い寄せられる。

 あやかしでもなければ妖魔でもない、しかしその姿は……。

「人間?」