「もちろんです、父上」

 大王はほんのり笑みを浮かべた。

煉魁(れんかい)、もっと近くに寄ってくれ。目も悪くなってしまって、お前の顔が見えない」

 今では大王以外、誰も口にすることのない真名で呼ばれたので、少し気恥ずかしくなりながら大王の側に近寄った。

 煉魁の母は、煉魁を産んですぐに亡くなった。元々体が弱く病に伏せがちだった母は、命懸けで煉魁を産んだのだという。

 母の執念ともいうべき愛を注がれて生を受けた煉魁は、とても丈夫で健やかに育った。

 父はその後、誰とも結婚しなかったので、正統な王位を引き継ぐ者は煉魁のみだった。

 煉魁がまだ少年と呼ばれるほど幼かった頃、王であった父も病に冒され、煉魁は幼くして王となった。

 退位した父は、大王と呼ばれ、今でも煉魁に唯一苦言を呈する者として信望されている。

「この通り、私はもう長くはない。早く身を固めてくれないと、安心して逝くことができぬ」