「見た目が好みではなくても、一緒にいるうちに楽しいなと思ったり情が芽生えたりするかもしれませんよ!」

「そもそも一緒にいたいと思える女性がいない」

 秋菊は、『さすがにそれは……』と思った。

「もしかして、あやかし王って初恋まだですか?」

 秋菊の問いに、あやかし王の眉間が寄った。

「まだだよ。悪いかよ」

 睨み付けられた秋菊は、しまったと思って両手で自分の口を塞いだ。

「俺を馬鹿にしているのか? おい、秋菊、このやろう!」

「わ~、ごめんなさい~!」

 そうして二人はじゃれ合いながら宮中へと戻った。


 あやかし王は、宮中に着くなり大王が療養する殿舎へと向かった。

「失礼いたします」

 寝所に入ると、寝台に横になっていた大王が横目であやかし王を一瞥(いちべつ)した。

「ようやく来たか。最近は起き上がるのも難儀で、このままでいいか?」

 大王の顔色は優れず、やつれていた。目の下には大きな隈があり、手は血管が浮き出ている。もう長くはないことは明らかだった。