あやかし王がスタスタと大股で闊歩していくので、男は釣り竿を抱えて必死に後を追った。

「それが一番面倒くさい。誰か俺の代わりにあやかし王になる者はいないかな」

「無理ですよ! あやかし王の御力に勝てる者などおりません!」

「力が必要なら補佐して代わりに戦うから、誰か俺の代わりに世継ぎ産んでくれたらなぁ」

 あやかし王が遠い目をして心底面倒くさそうに言うので、男は真剣に答えてみることにした。

「もしもこのままお世継ぎが産まれなかったら、次期継承権は遠い親族に渡されることになります。あやかし王と違って力も弱いですし、王位を巡って熾烈な権力争いが起こるかもしれません」

「そうだよなぁ」

 あやかし王は渋々といった様子でため息を吐いた。

 傍若無人の暴君ではあるが、国を憂い情が厚いところもある。だからこそ、口が多少悪くても、皆が王を慕いついていっているのだ。

「なあ、秋菊(しゅうきく)。お前、あやかし王にならない?」