「私は誰も殺したくはないです」

 琴禰はすがるような上目遣いで澄八に言った。

「それは無理な選択だ。君には強大な力がある。君が望むと望まざるに拘わらず、力のある者は弱者を助ける責務がある。それは使命だ。さあ、選べ。祓魔一族を滅亡させるのか、祓魔一族のために我々の念願であるあやかし王を討つのか」

「……私の使命」

 澄八の言葉は琴禰の胸に響いた。

 力のある者は弱者を助ける責務がある。それはまるで、琴禰は皆にとって必要な人材だと言われているかのようだった。

 これまで祓魔の人達からは酷い扱いを受けてきた。琴禰を殺そうともした。

 けれど殺したいとは思えなかった。一族を滅亡させる厄災になどなりたくない。

 であれば、一族の宿願である、あやかし王を葬り、平和で安穏な世の中を作りたい。

「あやかし王を討つなど、私にできるのでしょうか?」

「できる、できないではない。やるか、やらないかだ」