琴禰は一筋の涙を零しながら、玉唇を小さく開き、言葉を洩らした。

 その言葉に恐れ戦いた祓魔師たちは更に力を強める。しかしながら、渾身の力を用いた術は、琴禰の前で風に巻かれるように消えた。

「くそ! 妖女め!」

 祓魔師たちがその矜持にかけて一人の少女を葬り去ろうと力を振り絞った時、結界が解かれた。祓魔師たちは最初、結界を解いたのは琴禰だと思ったのだが、その実は五人衆のうちの一人、澄八だった。

 星型の強力な結界なので、一人でも術を解けばその力は無になる。

「何をしている澄八! 再び結界を敷け!」

 五人衆の最年長者に怒鳴られた澄八だったが、飄々とした物言いで返す。

「無駄ですよ。我々の命は彼女に握られている」

そして澄八は一歩を踏み出し、琴禰の側に寄った。

「君に選択を委ねよう。我々を殺すか、あやかしの王を殺すか。君が決めるのだ」

 周りの者達が澄八の身を案じ、緊迫の眼差しで見守っているにも関わらず、澄八は底の知れない冷たい目で琴禰を見つめていた。