そして煉魁は、黒の着物に黒の布で目から下を覆っていた。

「煉魁様、それ逆に目立ちませんか?」

 全身黒ずくめで、明らかに怪しい人だ。

「そうだが、俺の顔は目立ちすぎる」

 琴禰は内心で『確かに』と頷いた。あまりにも美しく整った顔で、内側から光が放たれているかのように肌も綺麗だ。

 怪しい人と敬遠される方がまだましなのかもしれない。

 とはいえ、煉魁はそういう意味で言ったのではなく、あやかし王だと気が付かれる方が厄介だという意味だった。

 宮中を出るのは初めてではないものの、いつもあやかしのいない辺鄙で二人きりになれる場所しか行ったことがなかったので、琴禰は浮足立っていた。

 煉魁と並んで歩くことも新鮮だ。

 新婚夫婦というよりも、まるで交際したての恋人同士のお出かけのようだ。

 ただ隣を歩いているだけで高揚する。

 煉魁は、いつもは早歩きなのに、琴禰の歩幅に合わせて歩いてくれている。

 そんな見えない優しさを感じ、琴禰は密かに胸をときめかせているのである。

 煉魁の大きな肩を見ていると、そっと触れたくなってきた。