幸せになってはいけないのだと全てを諦めていたのに、次から次へと幸せが降って来る。

 幸せ慣れしていない琴禰にとっては、素直に嬉しいと思う感情の前に、戸惑いがやってくるのだ。

「俺もそうだ。だが、言われてみれば確かに必要なことだよな。俺達は二人で勝手に結婚してしまったから」

「あの結婚式も、私にとっては宝物のような思い出です」

 満開の桜の木の下でした指輪交換を思い出し、琴禰はうっとりと顔を緩ませた。

「そんな思い出を、これからもたくさん作っていこう」

 煉魁は琴禰の肩を抱いて引き寄せた。

「……はい」

 この瞬間も琴禰にとっては幸せな思い出だ。

 煉魁と共に過ごすひと時全てがご褒美だ。

 胸の中から溢れ出る愛しさを感じて、思わず目を潤ませてしまうほど幸福な時間。

(幸せ過ぎると、泣きたくなるものなのね)

 初めて知った感情だった。

 辛く苦しい涙ばかり流していたのに、喜びの涙もあるのだと不思議な気持ちだった。

「今日の琴禰はひと際可愛い。脱がせるのが楽しみだ」

「え」

 煉魁は琴禰を抱き寄せながら歩く。

 せっかく綺麗な着物を着たのに、脱がせるのが楽しみとはどういうことなのか琴禰にはまったく理解できなかった。

 しかし、煉魁はなぜかいつもよりワクワクと高揚しているので、なんだか恥ずかしくなってくる。

 毎夜、煉魁に愛されているとはいえ、まだまだ慣れない。けれど、恥ずかしさと共に楽しみにしてしまう自分もいるのだった。