(なんという男だ)

 ここまで性根が腐った男だとは思わなかった。琴禰が何と言おうと、絶対にこの男の元にだけは行かせられない。

「あやかし王が人間のために犠牲になるわけがないだろう」

 嘲笑する野次が飛ぶ。

 澄八はむきになって反論した。

「二人は心の底から愛し合っていました。琴禰は、あやかし王を守るために自らを犠牲にして、僕を殺そうとまでしたのです。あの虫一匹すら殺せない軟弱な琴禰が、ですよ?」

「それは琴禰の話であって、あやかし王まで琴禰を心から愛しているとは限らないだろ」

「いいえ、あやかし達の話によると、あやかし王の方が執心しているそうです。国中から反対されても琴禰の結婚を押し切ったらしいです。琴禰のためなら何でもしそうなくらい溺愛しているように見えました」

 村人たちは顔を見合わせて、首を傾げている。半信半疑といった様子だ。

 一方、澄八の言葉を聞いた煉魁は、手で口を抑え呆然としていた。

(琴禰が、俺を守るために澄八を殺そうとした?)