湯を準備している間に、軽い食事を取った。

 体にたまっていた毒素もなくなり、生き返るようだ。

 湯を浴びて、髪に香油を塗ってもらっている中、扶久が世間話のように何気なく言った内容に衝撃を受ける。

「そういえば、あの人間の男性、もう人間界に帰ったらしいですよ」

「え⁉」

 明日か明後日には戻るかもしれないとは思っていたけれど、こんなに早いとは想定外だ。

 琴禰が突然震え出したので、扶久は手を止めた。

「琴禰様? 大丈夫ですか?」

「扶久、煉魁様は、いえ、あやかし王は今どこにいるの?」

「さあ、気ままなお方ですからねぇ。でも、もうすぐ帰って来ると思いますよ」

 扶久はニコリと笑って、再び髪を梳かし始めた。

(もうすぐ、この生活が終わる)

 琴禰は自分の手を握りしめて、溢れだしそうになる感情を抑えつけた。

 身支度を終えた琴禰は、寝室で煉魁を待っていた。

 もうすぐ帰って来るという扶久の言葉通り、日が沈む前に煉魁は帰ってきた。

 寝室に入ってきた煉魁は、琴禰の姿を見ると、俯きがちに目を逸らした。