煉魁が心から琴禰を大切に思ってくれていることは十分伝わっている。

 琴禰が別れを告げたら、どんなに傷つくだろうか。

『ようやく、生きている実感がする。ありがとう』

 と嬉しそうに微笑んだ煉魁を裏切ることになる。

(どうして出会ってしまったの)

 愛しあわなければ、傷つくことも傷つけることもなかった。

 大好きなのに。どうして……。

 失意のやり場のなさに怒りさえおぼえる。

涙がとめどなく溢れるのをとどめることもできず、どうすることもできない現実を受け入れるしかない。

 不穏な色をした波打つ雲が月を消していく。

 彩雲の上に存在するあやかしの国。その上にまた雲があり、月もある。

 なんて不思議な場所なのだろうと思う。

 神々が住む天上のように美麗なこの国を破壊させることなんて許せない。

 あやかし王が守るこの国を、命を懸けて琴禰も守ることを決めた。涙でぐしょぐしょになった顔を上げ、睨み付けるように空を仰ぐ。

(立たなければ。この国を守るために。煉魁様を守るために)