なんて恐ろしい契約なのだろう。

 澄八は力を発動させて琴禰を殺すこともできるのに、琴禰は澄八を殺せない。

 あまりにも琴禰に不利な契約だ。

 生き延びることに精一杯で、よく考えずに結んでしまったことが悔やまれる。

 殺すことも自死することもできないなら、どうすればいいのか分からない。

一番大切にしたい人を、誰よりも愛する人を傷つけることしかできないなんて。地が割れて飲み込まれそうになるくらい絶望的な心持ちだった。

 人形のように固まった琴禰の瞳から涙が伝った。

 琴禰の裏切りを確信した澄八は、身の危険を感じて徐々に琴禰から遠ざかる。

「最初から琴禰に選択権はなかったのだ。僕が死ぬことはすなわち、血の契約が発動されることを意味する。殺そうとしたって琴禰は血の契約から逃れられない!」

 口の端を上げて大声を張るが、肝は冷えていた。

血の契約によって琴禰に殺されることはないと分かっていても、頭の良い澄八は瞬時に最悪の想定を考える。

 琴禰自身は手を加えることはできなくても、他の者なら澄八を殺すことは可能だ。

 例えば琴禰が全てをあやかし王に告げれば、澄八を殺すことは容易だ。