澄八は琴禰に距離を詰めてきた。

 琴禰は目を泳がせて、半歩下がる。

「あの、臭いのであまり近づかない方が良いかと。好きな方を汚したくはありません」

 疑われないように、澄八のことを好きだと嘘をついた。

 しかし、澄八はさらに鋭い目付きで空いた距離を詰めてくる。

「琴禰が好きなのは、あやかし王でしょ?」

 確信を突かれて、胸がヒヤリとする。

(どうしよう、気づかれていた)

「そんなわけありません」

 琴禰は半笑いで澄八の目をじっと見つめて言った。

(絶対に隠し通すのよ)

 嘘は苦手だが、ここは何が何でも嘘を貫き通さなければいけない。

 煉魁につく嘘と違って、罪悪感はなかった。

「では証明してみせて」

「証明って言われても、何をすれば?」

「今宵、あやかし王を殺すのだ」

 全身から血の気が引いた。

 震えそうになる唇から、やっとのことで言葉を吐き出す。

「今宵は無理です。私は体調が悪く、一人で寝ていることになっています。真正面から対峙しても勝てないことは澄八さんにも分かるでしょう?」