「毒だと⁉」

 煉魁はこめかみに青筋を立てて言った。

「しかし毒であれば遅くとも三十分から一時間くらいで症状が現れるはずなのですが、琴禰様が食事を召し上がられてから数時間は経っております。これほど長い潜伏期間で、このような急性期のような症状で発症する毒を私は知りません」

 煉魁は眉を顰めたまま、心配そうに琴禰の頭を撫でた。

「かわいそうに、こんなに苦しんで」

「解毒剤や嘔吐剤は飲ませたのですが、なかなか吐く気配がなく……」

 侍医は困ったように言った。

「命は大丈夫なのか?」

「胃の中のものをすっかり吐いて、数日安静にしていれば問題ないでしょう」

「そうか。ところで、なぜ琴禰はここで寝ている? 寝室の方が広く寝心地も良いだろう」

「それは琴禰様のご希望です。厠に近い所で、ゆっくり一人で寝たいとおっしゃっておりました。私もここの方が何かと便利だと思います」

「なるほど」

 琴禰は吐き気を猛烈に我慢している状態なので、言葉を発することができなかった。