琴禰は少しだけ顔を歪ませながら無理をして笑みを作った。

 もう過去のことで、なんでもないことのように振る舞っているが、心に受けた傷はまだ癒えていないことを知り、煉魁は人知れず胸を痛めた。

「琴禰に優しくしてくれる者はいなかったのか?」

「あ~、澄八さんだけは優しかったです」

 食べていた手が止まる。

 意図せず聞き出す形となってしまった琴禰と澄八の関係性。

 初恋の人、という煉魁にとっては不快極まりない言葉を思い出し、味噌汁で流し込む。

「その、澄八という奴はアレか? 琴禰にとって、その、は、は、はつ……」

「はつ?」

 琴禰は、こてんと首をかしげた。

「初恋とか、そういう類の……」

 煉魁の言葉に、琴禰の顔はわかりやすく真っ赤になった。

 煉魁は大きな棍棒で殴られたかのような衝撃を受ける。

「いえ、あの、違うのです。澄八さんは、私の妹の婚約者だったので、そんな関係ではなく……」

「つまり、琴禰の片思い的な?」

 再び琴禰の顔が赤くなる。